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ぴったセル開発ストーリー

1:はじまりは「2%」の声から

2:誰かのためのものは、みんなのためのもの

3:親子の日常から見えてきた、「本当の姿」

4:使いやすさの、もう一歩先へ

5:6回の作り直し、そして「Dカン(※1)」事件

6:通知表をつけてほしい

7:1分の1の「想い」を形に

1:はじまりは「2%」の声から

佐野(フットマーク):きっかけは、うちの『ラクサック』というランドセルリュックに寄せられたアンケートだったんです。毎日、山田さんと二人で届く声を一通ずつ拾っているんですけど、その中に、一定数、障碍や特性を持ったお子さんの声がある。「ファスナーがうまく使えない」「マグネットバックルが、どうしても外せない」 だいたい、全体の2%くらい。

山田(フットマーク):そうなんです。世の中の統計でも、だいたいそれくらいの方が何らかの障碍を持っていると言われていて。うちのRAKUSACK製品に寄せられた声の比率と、そこが「ぴったり」同じだった。 なんとかしたいな、って。

佐野:……そういう切実な声が、ずっと心に溜まっていました。

2:誰かのためのものは、みんなのためのもの

佐野:最初は、特定の学校に通う子たちに限定したランドセルを考えていたんです。でも使用者を限定的にして、例えばユニバーサルデザインだと訴求した商品ってなかなか広まりにくいとも感じていました。そんな中、デザインをお願いしたGKダイナミックスの井上さんから、「違う可能性もあるかもしれません」と言われて。

井上(GKダイナミックス):「あ、それなら、特定の子専用のものを作るんじゃなくて、『インクルーシブデザイン』に向かいませんか」ってお話ししたんです。これまでのランドセルの選択肢から外されてしまっていた子たちの視点から、みんなにとって心地いいものを作り直していく。そういう挑戦をしませんか、と。

山田:障碍のある子のためだけではなく、一人ひとりのためのランドセル。「メイド・フォー・ユー(あなたのためのカバン)」。そのコンセプトを聞いたとき、 パッと視界が開けた気がしました。

3:親子の日常から見えてきた、「本当の姿」

佐野:ただ、想いはあっても、「じゃあ実際、その子たちは何に困ってるの?」という情報が、圧倒的に足りなかった。そこで、リサーチ会社のCULUMUさんに入ってもらいました。CULUMUさんはインクルーシブデザインを実践している企業で、特性のあるユーザーや法人との繋がりも豊富でリサーチも可能だったんです。

川島(CULUMU):のべ25組の親子にお話を伺ったのですが、そのうち5組のご家庭には、実際にお邪魔してじっくりお話を聴きました。お家の中を見せていただくと、壁にたくさんのメモが貼ってあったりして。親子で必死に考えた、日々の工夫の跡がびっしり詰まっていました。

対話と観察を重ねるうちに、点と点が繋がって、暮らしの「実態」が一枚の地図みたいに、鮮明に見えてくる。ランドセルのことだけじゃなく、ご家族の「歩み」そのものを丸ごと理解できたような感覚がありました。

1週間の「日記調査」もお願いしていて、毎日、保護者の方からLINEで動画やレポートが届くんですよ。お子さんのありのままの動画。それを見て、「あぁ、そんなふうに対応してるんだ。そこが、そう使いにくいのか」って。画面越しに突きつけられる「情報量の凄まじさ」に、 圧倒されました。

山田:アンケートを見ると、親がすべて準備するご家庭と、子どもが1人で準備するご家庭が、だいたい半々なんです。なかなかやっぱり子ども一人では準備しにくいんだなっていう数字も見えてきました。

佐野:親御さんにとって、何が一番の喜びなんだろう?そう問い直したとき、やっぱり「今まで親が手伝っていたことを、子ども一人でできるようになること」。そこなんだな、と。「助けてもらう」じゃなく、「自分でできた」をふやすランドセル。目指すべき道が、そこで一気にクリアになりました。

本当に、今回のこの調査を通してよかったところが、いっぱいあるんです。「顔が見える」ようになったこと。その人のために作りたい、という。まさに、うちの「1分の1の視点※」そのものだと、改めて実感しました。そこから一気に、開発が加速度的に進んだんです。

※「1分の1の視点」―フットマークが大切にしている「一人ひとりの悩みやニーズに深く向き合う」ものづくりの手法

4:使いやすさの、もう一歩先へ

佐野:今振り返ると、ここ最近では珍しく長期間のプロジェクトでした。通常、フットマークは企画から商品化までは半年から1年という短い期間です。でも、「インクルーシブデザインを掲げるなら、本当にいつもの進め方でいいのか」という問いが自分の中にあり、それは他の担当者も同じように感じていました。だからこそ、今回はあえて時間をかけて、一人ひとりの声に徹底的に耳を傾けようと決めたんです。

井上:単に「不便なところを直しました」っていう、いわゆる「負の解消」だけで終わらせたくなかったんですよね。それだけだと、どこか義務的というか、冷たい感じがして。

ランドセルって毎日持つものじゃないですか。だから、それを持ったときに、お子さんの背筋がちょっと伸びるような、自信が持てるような「あ、これいいな」って素直に思える……。そういうポジティブな「心の動き」を設計したかった。

この「問い直し」の時間っていうのは、その一番根っこにある「あり方」を皆と手探りで見つけるために絶対に必要なプロセスだったんだと、いま改めて思いますね。

5:6回の作り直し、そして「Dカン」未遂?事件

井上:デザインも、ベースは最初から良かった。リサーチをもとに徹底的に議論した結果、初回のデザインで見たことの無い良いものができた!と思いました。でも、そこからが長かった(笑)。

「より良いものを」というみなさんの想いが、本当に強くて。「もし、自分の子がこのランドセルを使うとしたら?」という、親としての視点で皆さんがフィードバックをくださるから、6回は作り直しましたね。開発期間は長くなりましたけど、その分、純度の高いものになったと思います。

佐野:小学生はたとえば6年間で身長が120センチから150センチまで伸びたりします。その体型変化に、たった一つのパターン(型紙)で合わせる。もう二次元のパターンではなく三次元(3D)パターンの専門家じゃないと実現は無理だと思いその道のプロに頼み込みました。何とか実現してほしい、と。パターンも完成まで何ヶ月もかかりましたがもう、必死でした。そこへ常識では考えつかないような「開け方」をGKさんが提案してくださり、自由な発想の「ランドセル」が完成していったんです。

井上:(笑いながら)あまりに必死すぎて、デザイン画にあった「Dカン(防犯ブザーなどをかける金具)」を、付け忘れたまま進めてたんですよ。ずっと誰も気づかなかった…。

佐野:そう!最終段階で「防犯ブザー、どこに付けるの!?」って。目を覚ました瞬間ですね。慌てて最終サンプルの発注寸前に手書きで指示を足しました。細かくてしつこい修正に付き合ってくださった生産工場さんには頭が上がりません。きっと今度こそ最後、大丈夫……なはず(笑)。

6:子どもたちに通知表をつけてほしい

山田:商品名も、みんなで知恵を絞り出しましたよね。ロゴデザインは井上さんで。それから「どう届けるか」という部分も。ここから再びCULUMUさんの力を借りてホームページ制作に突入するんですが。ホームページもお子さんと一緒に見て検討してほしいから、メッセージとして伝えたい文章には、ふりがなを振ったんです。

佐野:そう。お子さんと一緒に、「これ、使いやすそうじゃない?」って、楽しみながら選んでほしかった。親御さんだけが検討するんじゃなく、子どもが自分から「これ!」と言える。そんな「選ぶ体験」から、はじまってほしかったんです。

でも、これで完成じゃないんです。いつか「子ども会議」を開きたい。大人たちが必死でつくったぴったセルに、子どもたちから厳しく「通知表」をつけてもらいたいんですよ。

山田:「ここが使いにくい!」「もっとこういうのが欲しい」っていう声がないと、私たちは次の新しいものを作れませんから。不満も、喜びも、遠慮なく届けてほしい。そこからまた、始めたいんです。

7:1分の1の「想い」を形に

井上:客観的に見て、フットマークさんは「概念実証(試作・検証の工程)」をすごく丁寧にやられていますよね。試作を作る段階でお客さんの声を聞き、盛り込んでいく。インクルーシブデザインであり、デザイン思考そのものの進め方だと思います。

佐野:開発には、長い時間がかかってしまいました。でも、ただの「新しい商品」を増やすのではなく、待ってくださっているご家族の想いに応えることがフットマークという会社の役割だと思ったんです。

川合(CULUMU):今回のユーザーの声を起点に、妥協せずに作り直していく姿勢は、なかなか見られないものでした。フットマークさんの『1分の1の視点』が、外部の私たちと混ざることで、より具体的な形になっていったと感じています。

川島:(頷きながら)本当にそうですね。大人が今出せるベストを、チーム一丸となって詰め込みました。このカバンが、学校に行きたくなるきっかけになれば、うれしいです。

井上:ここにいる5人だけじゃなく、背後には、関わってくれたメンバーがたくさんいます。みんなの「知の結晶」ですから。

佐野:本当に良いチームでものづくりができました、とお礼を伝えたいです。ぴったセルを手に取ったお子さんが、「すごく使いやすい!これならできる!」って顔をほころばせる。(実際の声はHP内の「モニターさんの声」をご覧ください!)——そんな瞬間を想像しながら、完成させることができました。

ぴったセルで日々を「できた」でいっぱいにして、自信につなげてあげたい。ランドセルを通してたくさんの子供達を応援できたらこれ以上嬉しいことはないです。